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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)345号 判決 1948年7月29日

主文

原判決を破毀する。

本件を仙台高等裁判所に差戻す。

理由

仙台高等檢察檢事長代理檢事川名春治上告趣意書は添付別紙のとおりである。

ところで、本件公訴事実中の第二は被告人が第一事実において示すように金原新吉を短刀を以て畏怖させた上同人から金員を交付させた際、右短刀で同人の左側鼠蹊部を突刺して全治三週間を要する切刺傷を加えたと云うのである。そこで、右第一と第二との各事実が凡て證明されるならば、被告人は恐喝罪と傷害罪とにつき刑法第五十四條第一項前段の規定を適用して處斷されなければならない。けだし、傷害行爲は恐喝行爲とは別個に、これの事前若しくは事後においてなされたのではなく、傷害行爲がただちに恐喝行爲の手段としてなされたと言うからである。しかるに、原判決は、被告人の恐喝行爲は脅迫を手段としたのであって暴行を手段としたのではないと認定すると共に、被告人に暴行又は傷害の故意を認むべき證據なしとして傷害事実の成立を否定し、この點について無罪の言渡をした。しかし、この措置は明かに誤っていると言わなくてはならない。暴行又は傷害の故意のないと言うことから、ただちに傷害事実を全面的に否定することはできない。要するに、原判決は「被告人の加害行爲が暴行又は傷害の故意を以てなされたと認むべき證據なし」との一點を捉えて結局犯罪の證明なき場合に該當するものとして公訴事実中傷害の點に對し無罪の言渡をしたのは、理由不備の違法あるを免れない。從って、論旨は理由あるものと云わなくてはならない。しかも、右の違法は事実の確定に影響を及ぼすべき法令の違反であるから、原判決を破毀し、事件を原裁判所たる仙台高等裁判所に差戻さなければならない。

仍って、刑事訴訟第四百四十七條第四百四十八條ノ二第一項の規定に從い、主文の如く判決する。

この判決は裁判官の全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重)

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